プレスリリース(2015年12月10日掲載)

【担当:教授 髙橋 智・助教 内木 綾 / プレスリリース掲載日:2015年10月23日】

内木綾助教、高橋智教授らの研究グループは、エゴマなどのシソ科種子に含まれるフラボノイドであるルテオリンが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の進行やがん化に対する予防効果を示すことを明らかにし、その成果は英国科学雑誌「Carcinogenesis(カルチノジェネシス)」電子版に掲載されました(英国時間10月22日午後5時に掲載)。
その記事が10月23日の中日新聞、朝日新聞、読売新聞の朝刊、共同通信、全国の地方新聞41紙、10月25日の日本経済新聞朝刊、10月27日の毎日新聞夕刊に掲載されました。また、12月5日放送のTBSテレビの番組「世界ふしぎ発見」にも紹介され、平成28年1月9日放送の日本テレビの番組「世界一受けたい授業」でも紹介される予定です。

増え続ける新たな肝癌リスク”非アルコール性脂肪肝炎”予防に「エゴマ成分」が有効

要旨

本学の医学研究科実験病態病理学分野の内木綾助教・高橋智教授と、消化器外科学分野の佐川弘之(大学院生)らの研究グループは、ラットを用いた研究により、エゴマの成分が非アルコール性脂肪肝炎(N A S H )や肝細胞のがん化を抑制することを見出しました。またN A S H からのがん化を促す新しい遺伝子を発見しました。
この成果は、英国の科学雑誌「Carcinogenesis (カルチノジェネシス)」(電子版)に掲載されます(英国時間10 月22 日午後5 時)。

内容の詳細

●研究の背景
肝癌の原因としては、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎がよく知られています。しかし最近では、生活習慣や食事の変化により、アルコールをそれほど飲まないのに脂肪肝や肝硬変につながる炎症や線維化が起こる肝炎・NASH が増加しており、新たな肝癌のリスクとして注目されています。NASH の発症や進展には、老化や活性酸素発生による酸化ストレスが関与することがわかってきています。しかしながら、どうして老化するとNASH が進行しやすいのか、NASH からどのようにがんができるのかという点についてはよくわかっていませんでした。

●研究手法と成果
本学医学研究科の内木綾助教の研究グループは、細胞と細胞の間に存在し生体や組織を正常に保つ働きをもつ、”ギャップ結合”という装置の機能が、老化したラットの肝細胞で2は著しく低下することを明らかにしました。今回は、老化がNASH に与える影響を調べるため、肝細胞のギャップ結合の機能を遺伝子的に破壊したラットを作製し、”老化モデル”として用いました。一方、NASH への酸化ストレスの関わりから、エゴマの種子に含まれ、抗酸化作用を持つ「ルテオリン」には、NASH を予防する効果があるのではと考えました。

正常のラットとギャップ結合が異常なラットにNASH を引き起こす餌を3ヶ月与え、この餌に「ルテオリン」を混ぜて与えたグループと比較しました。その結果、ギャップ結合が異常なラットでは、正常ラットと比較して、肝炎や線維化の程度が強く、NASH が進行しやすいことがわかりました。またそれぞれのラットに「ルテオリン」を摂取させたグループでは、摂取させないグループと比較して、NASH の改善が見られました(図1)。酸化ストレスの原因となる、サイトカインや活性酸素の量を調べてみると、ギャップ結合が異常なラットでは正常ラットと比べて高く、「ルテオリン」の摂取により下がりました。

図1.ラット肝組織像:「ルテオリン」の摂取は肝の炎症(上)と線維化(下)を抑制した
[図1.ラット肝組織像:「ルテオリン」の摂取は肝の炎症(上)と線維化(下)を抑制した]

次に、NASH のがん化に関わる因子を解析しました。ギャップ結合が異常なラットの肝臓では、正常と比べてがんの元となる病変(前癌病変)が多く発生し、「ルテオリン」を摂取したグループではその数が減りました。それぞれのグループの肝臓の遺伝子発現パターンを比較した結果、前癌病変の発生数と連動して発現変化し、周りの肝細胞よりも前癌病変や肝癌で高く発現する遺伝子として、brain expressed, X-linked 1 (Bex1)が見つかりました。Bex1 が肝細胞のがん化にどのように関わるかを詳しく調べるために、正常肝細胞にBex1 を発現させたところ、細胞の増殖スピードが速くなりました。反対に肝癌細胞のBex1 発現を抑えると、癌細胞の増殖が遅くなりました。さらにその分子機序を調べたところ、癌細胞の増殖に重要なJnk 経路やNf-κB 経路と呼ばれる経路をBex1 が促進していることが明らかになりました。

図2.「ルテオリン」とギャップ結合によるNASH とがん化の予防機構
[図2.「ルテオリン」とギャップ結合によるNASH とがん化の予防機構]

●研究成果の意義および今後の展開
NASH の発症率はメタボリックシンドロームの増加と並行するように増え続けています。NASH が進行すると肝癌が起こる可能性があることから、その予防や治療などの対策が必要です。今回の結果から、老化をはじめとして、ギャップ結合が正常に機能しないと、酸化ストレスが蓄積しやすく、NASH が悪化する可能性があること、「ルテオリン」を含む食品やサプリメントの摂取が、NASH の予防に役立つ可能性があることがわかりました。さらに、Bex1 遺伝子はNASH からがんが発生するとき、あるいはがん化した後も、増殖の維持に重要な役割を担っていることが、本研究で初めて解明されました。この結果は、NASH が進展する過程の分子機構の理解を深めるとともに、新しいNASH の治療方法の開発につながる可能性が期待されます。

掲載される論文の詳細

掲載誌   Carcinogenesis(カルチノジェネシス)誌(電子版)
題名    Connexin 32 and luteolin play protective roles in nonalcoholic steatohepatitis development and its related hepatocarcinogenesis in rats.
著者    佐川弘之、内木綾、加藤寛之、内木拓、山下依子、鈴木周五、佐藤慎哉、塩見浩介、加藤晃久、久野壽也、松尾洋一、木村昌弘、竹山廣光、高橋智
(所属はすべて名古屋市立大学医学研究科)