ごあいさつ

先入観を捨て、真実と真摯に向き合う。

病理学には研究中心の実験病理学と診断中心の外科病理学があります。私たちの教室ではこの両者を車の両輪のごとく密接に関連させながらそれぞれに従事およびその手法の習得が可能となります。これが私たちの教室の特徴であり、かつ強みでもあります。

病理医の重要な任務の1つとして病理診断があり、これが外科病理学です。患者を直接診る事はありませんが、患者にとって有益になる情報は積極的に主治医に伝える必要があります。病理検体から得られるすべての情報を病理診断書に盛り込む事は非常に難しく、それを補うためにも臨床医とのコミュニケーションが必要不可欠です。難しい判断を迫られる場面もしばしばありますが、病理診断は最終診断として要となるものですので、自分の意見がぶれることなく説明責任が果たせる人物像が求められます。一方、実験病理学は疾患の発症機序、原因、進展要因、予防・治療方法の確立に向け、病理組織細胞学的所見を基盤にして細胞や動物を用いた実験的手法によって研究する学問です。私たちの教室では癌研究を中心に行っていますが、環境物質の毒性・発癌性評価についても研究を進めています。これらの研究結果をヒトにとって有益なデータとして提供することが、実験病理学における学問としての最終目標です。

実験病理学、外科病理学の両者を手がけて行く事は実際にはかなり厳しく、通常ですとどちらか一方を選択し、片方は片手間に行うようになりがちですが、私たちの教室ではこの両者を手抜きする事なく全精力を注いで遂行していくよう日夜努力しています。私が病理診断や研究・実験を行う際に常に心がけている事は先入観を捨てることです。病理診断の際に患者の臨床情報は非常に大事ですが、それに振り回されていては正しい診断にはたどり着きません。標本から得られた所見を素直に集積して診断に結び付けて行くことが重要であると考えています。これは研究においても同様です。自ら描いた論理展開が正しいかどうか証明しようとすることが研究ですが、予測していたものとは全く別な結果が得られる事がしばしばあります。この場合、自分の実験手技がまちがっていたのだろうか、と思うのではなく、想定していたものとは異なる機序があるのではないか、と考えることが重要であり、そのような場面から新しい発見が生まれてくることが研究の醍醐味でもあります。「先入観を捨て、真実と真摯に向き合う」ことは医師、研究者として最も基本となる姿勢であると考えており、私も常に自分自身にこの言葉を言い聞かせながら研究、診断に従事しています。

私たちの教室は実験病理学のみならず外科病理学専攻を目指す人にとっても快適な環境を有しています。教室員として所属する時点で、自分が研究向きなのかそれとも診断学の方が合っているのかわからないと思いますが、教室に入ってから将来の方向性を決めても遅くはありません。また、「やはり病理は向いていないな」、と思われる方は臨床に移る事も可能です(せっかくですから学位を取得してから移る事をお勧めします)。まずは、病理学の世界に飛び込んで実体験してみてはどうでしょうか?

教授 髙橋 智

Professor and Chairman
Satoru Takahashi